ショートクランクは「回転」で有利に?
前回の記事から無茶苦茶あいだが空いてしまいましたが、ショートクランクの話の続きです。
前回はクランク長が短くなることによる力学的な不利を考えました。瞬間的なパワーについてはショートクランクが不利なのは計算でもハッキリ分かりました。そこで今回は回転メリットの方を考えてみます。
サイクルスポーツの記事の計算がちょっと…
以前「CYCLE SPORTS (サイクルスポーツ) 2017年 11月号」でショートクランクの特集をやっていました。
そこで紹介されていたこんな計算式があります(π=3.14とします)
- ペダルの動く速度(CPV)=ケイデンス×クランク長×2π÷時間
クランク長は半径ですから2πをかければ円周が出ます。これにケイデンスをかければ1分間にペダルが移動する距離になりますので、時間で割れば速度が計算できるわけです。高校の物理の授業を真面目に受けていれば簡単に考えつける計算式です。
試しに170mmのクランクでケイデンス90のときのペダルの速度を計算すると
- CPV(170)=90×170×2π÷1(分)=30600π(mm/m)
これと同じペダルスピードで165mmのクランクを回したらケイデンスがどうなるかというと…
- ケイデンス(クランク165)=30600π÷(165×2π)=92.7272…=およそ93
となります。ちなみにサイクルスポーツ紙の記事だとこうなっていました。
(画像引用元:CYCLE SPORTS (サイクルスポーツ) 2017年 11月号)
一応クランク長165については記事の通りの計算結果でしたが、念のため他のクランク長でも計算してみましょう。
- ケイデンス(クランク180)=30600π÷(180×2π)=85
- ケイデンス(クランク160)=30600π÷(160×2π)=95.625=およそ96
- ケイデンス(クランク155)=30600π÷(155×2π)=98.709…=およそ99
サイクルスポーツさん!!記事の計算間違ってますよ!!!(苦笑)
本当の問題はここからです
サイクルスポーツ紙の記事は「回転数が上がる」というところで終わってしまっていて、じゃあそれがどう生きるのかという検証をしていませんでした。
まあ単純にケイデンスが上がれば速度は上がりますけど、クランクが短くなった分踏み込みがキツくなることは分かっていますし、そう単純に結論が出る話でないことはみんな承知していることと思います。
私もここをどう考えたらいいのか結構悩みました(おかげでブログにするのが遅くなりましたよ)
まずは単純に、
例として50×16のギアで走っているとします。
このときクランク長170でケイデンス90の場合と、クランク長165でケイデンス93の場合で走行速度を比較してみます。ギア比3.13、タイヤ外径668mm(700×23C)に当てはめると、
- ケイデンス90(クランク170)のスピード=35.4km/h
- ケイデンス93(クランク165)のスピード=36.7km/h
となりました(計算式は省略)
当然ですがケイデンスが上がればスピードは速くなりますので、クランクが短くなっても同じペダルスピードで同じギアを回せる脚力があるなら明確にメリットと言えます。
問題はペダルが重くてケイデンスを保てず、ペダルスピード維持のためにギアを一枚軽くする場合じゃないかと思います。いわゆる「軽いギアでのハイケイデンス」というやつを行う場合です。
上の計算のギアから一枚軽くして、50×17(ギア比2.94)にしてみると
- ケイデンス93(クランク165)のスピード=34.4km/h
ギアを一枚軽くしたら、ここまで遅くなりました。結局元の長さで回していたときよりスピードは低下してしまうということになります。
一枚軽い50×17のギアで最初の35.4km/hと同じスピードで走るにはケイデンスを96まで上げなければなりません…
あれっ?
ケイデンス96ですってよ!
つまりこれはクランク長160mmで計算したケイデンスじゃないですか!
いっそ160mmまで短く
というわけでここまでの(一応の)結論ですが、ペダルスピードは変えないという前提で、クランク長を短くしてギアを一枚軽くする場合、
いっそのことクランク長は160まで短くしてしまった方が良い!
ということになりました(マジかい!)
ここまで短くすれば、一枚軽いギアに落としても回転数のメリットを生かしたスピード維持ができるという計算結果です。うーむ、結構意外な結論になってしまいましたよ!
ちなみに、
前回計算した「てこ」のパワー差を160のクランクに当てはめて計算してみると
- アウターの場合170に対して最大約16%強く踏む必要がある
- インナーの場合170に対して最大約10%強く踏む必要がある
という計算になります。確かにパワー差は大きいですが、これはあくまで同じギア比の場合。
ここからギアを1枚軽く出来ますのである程度はそれで緩和できるはずです。一説ではギア1枚分のパワー差は8%前後だそうですので、インナーならほぼ吸収できてしまいそうです。
この辺もインナーを多用するヒルクライムがショートクランクと相性が良いと言われる理由かもしれません。
(次回は体格とショートクランクの相性の話…にする予定です)