クランクの選び方はいろいろ
前回・前々回とクランク周りの力学計算をしてみましたが、結局それを踏み込むのは人間であるため、実際に走るとなるとどうしても乗り手との相性が出てきてしまいます。人によって脚の長さや筋力や、柔軟性など様々な要素が違いますので、これがクランク長選びを難しくしているのは間違いないでしょう。
最も古くから目安として言われているのは「身長の1/10程度」という選び方。
でもこれだとあまりにも大雑把すぎるというのは、誰もが感じているんじゃないかと思います。同じ身長でも脚の長さに個人差があるのは当たり前ですからねぇ。
海外の研究を調べてみたところ、
- 股下の長さ
- 脚を一番上げたときの体との角度
- 大腿骨の長さ
など様々な基準を挙げている模様です。ただどれも決定打には欠けるように思えます。
プロのクランク長に基準はあるか?
プロ選手の事例についてもいろいろ調べてみましたが、やはり選手によって様々で、万人に適用できるような基準は見いだせません。
また、プロ選手のクランク長と身長のデータは割と見かけるのですが、股下長さの資料が殆ど公開されていないため、十分な比較データを収集するのもなかなか困難です。
そんな中でこんな話を見つけました。
- クリス・フルーム選手は身長185cm・股下89cm・クランク長175mm
- ヴィンチェンツォ・ニーバリ選手は身長181cm・股下87cm・クランク長172.5mmを使っていたが175mmに変えて調子を落としたことがある
比較対象としてはあまりにも少ないサンプル数ですが、ここに何か共通項は無いかを考えてみることにしました。ただし出来るだけ客観的に、前回までと同様に数学を使って考えてみます。
外国人選手は、実はショートクランクを使っている?
上の写真で
- 右足側はペダルが最も体から遠く、脚が一番伸びた状態
- 左足側はペダルが最も体に近く、脚が一番縮んだ状態です
脚が伸びた状態に合わせてサドル高を決めているはずですので、クランク長の影響が出るのは脚が縮んだときですよね。
この時に長いクランクだと脚が上がりすぎて股関節が窮屈になってしまい、スムーズなペダリングを阻害してしまいます。そこでショートクランクを使って脚に余裕を持たせ、上死点をスムーズに通過させよう、というのが最近主流の考え方だそうです。
一番伸びた状態を股下長さ(赤色の矢印)とすると、一番縮んだときは股下長さからクランク長の2倍を引いた距離(オレンジ色の矢印)ということになります(靴や中敷きやクリートの厚さは考慮してません)
この一番脚が縮んだときの距離は
- フルーム選手の場合 89cm-17.5cm×2=54cm(股下長さの60.7%)
- ニーバリ選手の場合(175の時)87cm-17.5cm×2=52cm(股下長さの59.8%)
- ニーバリ選手の場合(172.5の時)87cm-17.25cm×2=52.5cm(股下長さの60.3%)
本当にわずかな、微妙な差ではありますが、どうもこの60%というあたりに基準がありそうな気がしてきました。
ちなみに自分の場合、身長175cm、股下79cmです(短足ですね…)これで同様の計算をしてみると
- クランク170の時 79cm-17cm×2=45cm(股下長さの57.0%)
- クランク165の時 79cm-16.5cm×2=46cm(股下長さの58.2%)
- クランク160の時 79cm-16cm×2=47cm(股下長さの59.5%)
という数字になりました。どうも短足の人間というのは、思った以上に窮屈なペダリングをしているのかもしれません。160まで短くしても60%の比率に乗せることが出来ませんよ。外国人選手と比較してみると、160でもまだクランクが長いということになってしまいます!!
比率を60%台に乗せたければ、私の場合クランク長を158mmまで短くしないといけません。
つまり、脚の長い外国人選手は、実は結構なショートクランクを使っているんじゃないか? というのが数字で見えてきました。
やっぱり脚の長い外国人選手は有利なようです
なら足の短い我々も股下に合わせたショートクランクを使ったらいいじゃないか、というとそう簡単には問屋が卸しません。
クランクが短くなる事によるパワー的な不利は前回・前々回で計算してきました。やっぱり不利なものは不利なのです。
外国人選手はその身体に対してショートと言えるようなクランクを使っていても、もともとの股下が長いおかげで170以上の長さがあるクランクが普通に使えているわけです。いやむしろそれが世界標準なんでしょうね。彼らはショートだなんて思ってもいないでしょう。
つまるところ脚が長ければショートクランクの利点と長いクランクの利点を両方生かせるわけです。
体格的にそれが無理な場合は、どこかで利点と欠点の折り合いを付けて、自分に合った物を選択するしかない、ということになってきます。
私が考える現時点のまとめ
- 股下の短い日本人にとって、適正クランク長は想像以上に短い
- 股下寸法に合わせてクランクを短くするなら回転重視のペダリングをする必要がある
- あえて長いクランクを使うなら、関節の柔軟性を向上して上死点でも回転が詰まらないようなペダリングをする必要がある
ショートクランクの場合、パワーの不足を回転で補うことになりますので、ハイケイデンスでのペダリングが得意な人の方が向いていると思われます。股関節が固くて脚が上手く上がらないような人もショートクランクの方が良さそうです。逆に股関節が柔らかくスムーズなペダリングが出来る人であれば、あまり短くする必要はないのかもしれません。練習や慣れでもある程度は改善はできるでしょう。
どちらの利点を優先して選択するかは……、やっばり実際に試して見るしかないんでしょうねぇ。ですが極端に短いクランクを使うという選択自体は、そんなに間違ったことでもないようです。