【感想】細かい所に気の配られた演出に舌を巻く、アイの歌声を聴かせてを見てきた【映画】
予想外の傑作でした
宣伝もあまりされてませんし私もノーチェックだったのですが、見た人の評判がえらく良かったので「アイの歌声を聴かせて」を見に行ってきました。
うちの近所の劇場では、音響に監修の入った「アイの歌声が良く聞こえるかも音」バージョンの上映をしていましたので、これで見てきました。
予備知識は一切仕入れず行ったのでミュージカル仕立てだと言うことすら知らなかったのですが、これがなかなかの傑作。
監督・脚本は吉浦康裕さん。過去作の中では「サカサマのパテマ」と「機動警察パトレイバーREBOOT」は見ていたのですが、一番の代表作である「イヴの時間」は未見です。
「サカサマのパテマ」はnetflix、「イヴの時間」はAmazonプライムでそれぞれ配信されていますので、あとで「イヴの時間」も見てみようと思っています。
「機動警察パトレイバーREBOOT」は以前無料配信されていた際に見たのですが、細かいところに気を配った上手い演出をする方だなぁと思ったのを覚えています。こういう短編は作り手の実力がハッキリ出ますね。短編の単発で終わらせるには非常に惜しい作品だと思います。
今回の映画もやはり細かい部分に気を配った描写が目に付きました。
また作品内で起きる出来事について(多少ファンタジーな面はあるとしても)ちゃんと筋の通った理由付けや設定を用意しているのも感心しましたよ。
特にミュージカル映画においては、突然歌い出したり、周囲がそれに合わせて踊り出したりといったことが説明もなく起こりますが(苦笑)この映画はその理由にちゃんと筋道を付けていて大変よかったです。これならミュージカルに今ひとつ苦手意識のある自分も納得でした。
まさかミュージカルの理由付けをこういうSFにしてしまうとはねぇ。
個人的にはエフェクトが派手めな発電施設でのシーンより、柔道の乱取りのシーンの方が好きかな。動きとかキレッキレで見入ってしまいましたよ。
(以下は、若干のネタバレを含みますので御注意下さい)
やや手垢の付いた題材ではありますが
人工知能テーマにアンドロイドやネットワーク上の知性体という、個々の材料はもはや今更感のある定番の物ばかりなのですが、料理の仕方が実に上手い。
それでいてしっかりSFしているのも嬉しいです。
とっつきやすく学園青春ストーリーをベースにしてコミカルに展開していきますが、登場人物それぞれの描写の巧さも唸りますね。
ちょっとした小道具だったり視線だったり、ああなるほど、あれはそういう伏線だったのか、と感心させられる部分が多かったです。この辺はもう一度見て確認したいですね。
こういう行き届いた描写の積み重ねで、それも映画という短時間のフィルムでキャラクターをしっかり立てていくというのは、なかなか簡単ではありませんよ。やはりこういう所が上手いなぁと感心してしまうのです。
ネットワーク知性や暴走するAIの話となると、とかく人類との対決方向に行きがちですし、実際登場人物の大人達はその方向に動いてしまうのですが、ここを暗い展開に持っていかずに、最後をちゃんとハッピーエンドにしている点も個人的には評価の高いポイントでした。
創作物は変に暗くするより、多少嘘くさくともハッピーな方が楽しいですからね。
それに明るい未来を描くSF作品ってめっきり減ってますからねぇ。久々に明るい未来を感じさせるSFを見た気がします。
あと細かい感想を書くと、
津田健次郎さんが演じる悪役上司、ネチっこい演技が大変楽しかったです(苦笑)いやぁ、こういうオッサン演技やっぱり上手いですねぇ。
土屋太鳳さんは歌お上手ですねぇ。これは聞き入ってしまいました。
あとはあれだ、性癖が歪みつつあるサンダーはくじけず頑張れ!(苦笑)
それにしてもこの映画もう少しちゃんと宣伝した方がいいんじゃないかしら。どう見ても興業は苦戦しそうだし、実際劇場もガラガラだったし……
短期間で上映回数減らされそうな気がしますので、興味のある方は早めに劇場に脚を運ばれた方がよろしいかと思います。